元インキュベクス代表取締役(現:円仁会代表)の上村(かみむら)さんにお話しいただいております。

こんにちは、円仁会の上村です。
今回は、ヤングケアラーという社会問題について、あるご家庭で実際に起きている出来事を通じて考えていきます。
こちらの動画はYouTubeでも配信しておりますので是非ご覧ください。
一つの家族の実例〜こんな家族がいます
このご家庭では、15歳の中学生、50代半ばのお母様、そして80代半ばで認知症を患う祖父が共に暮らしています。
祖父の介護は、長年にわたり70代後半の祖母が担ってきましたが、老老介護の限界を迎え、娘であるお母様がその役割を引き継ぐことになりました。

お母様は仕事との両立が難しくなり、ついには「介護離職」を決断せざるを得ませんでした。
その後も全力で介護にあたっていましたが、やがて心身ともに限界を迎え、介護のバトンは15歳の中学生の娘に渡されることとなったのです。
このご家庭では24時間365日、介護ケアが必要とされる状況が続いており、同様のケースは全国で増え続けています。
中学生・高校生のヤングケアラーの数
ヤングケアラーとは、家族の介護や家事を日常的に担っている18歳未満の子どもたちのことを指します。
文部科学省と厚生労働省が連携して行った「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム報告」の中で、世話を している家族が「いる」と回答した子どもは、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生の4.1%という結果になっております。
また、そのうちの約1割が、平日に7時間以上を世話に費やしているという結果も報告されています。(※1)
さらに、自治体ごとの調査も進んでおり、2022年には横浜市が独自に行った調査で以下のような結果が示されました。(※2)
- 小学5年生:20.3%(約5人に1人)が家族の世話をしていると回答
- 中学2年生:13.5%(約7人に1人)
- 高校2年生:5.4%(約19人に1人)
また、自分が「ヤングケアラーにあたると思う」と答えた子どもの割合は、
- 小学5年生:8.6%
- 中学2年生:6.5%
- 高校2年生:11.0%
このように、子どもが家庭のケアを担っている割合は決して少なくなく、特に中学生・高校生年代でも1クラスに数名はヤングケアラーが存在していると推定されます。
しかも、子どもたちの多くは自分の置かれている状況が特別だと気づいておらず、声をあげることもできないまま日常を過ごしています。
※1)文部科学省ホームページ「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム報告」より▶https://www.mext.go.jp/content/20210521-mxt_jidou02-000015177_b.pdf
※2)横浜市ホームページ「横浜市におけるヤングケアラーに関する実態把握調査結果について」より▶https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kodomo/2022/default20221128.files/22112801.pdf
誰にも言えない、助けを呼べないヤングケアラー
ヤングケアラーの抱える問題の一つは、「助けを求められない」ことです。
今回の15歳の中学生も、「勉強したい」「部活に行きたい」と思いながらも、それを言い出すことができませんでした。
家族の中で「介護はみんなでやるのが当然」という暗黙のルールがある中、自分の気持ちを押し殺して、おじいちゃんの介護を担っているのです。 精神的なプレッシャー、学習機会の喪失、社会的孤立。
こうした見えづらい苦しみを、誰にも伝えられないまま日々を過ごしている子どもたちが確実に存在します。
ケアマネには「つなぐ」力がある
私たちケアマネ事務所にできることは、「気づき」から「つなぐ」ことだと考えています。
ケアマネージャーは、高齢者のご自宅に訪問し、家庭の中に入り込む立場です。その中で、「何かおかしい」「この子、元気がないな」といった違和感に気づくことがあります。
たとえば、ヤングケアラーがきちんと食事を取れていない、学校に通えていないといった状況がある場合、それを見逃さずにNPO団体や行政、地域の支援団体へと繋いでいく。
それこそがケアマネの「つなぐ力」だと思うのです。
直接的な介入ができなくても、支援の輪に繋ぐことはできるはずです。
介護の連鎖を断つケアマネの力
今回のケースのように、祖母から母へ、そして娘へと介護のバトンが渡される構図は「介護の連鎖」とも言えます。
この連鎖を止めなければ、家族全体が共倒れになりかねません。
ケアマネージャーや私たち事業所が微力ながらもできることは、この連鎖をどこかで断ち切る一助になること。
気づき、つなぎ、必要な支援を届けることで、介護による家庭崩壊を防ぐ支援ができるのではないかと考えています。
私たちからのメッセージ
ヤングケアラーの問題は、誰にでも起こりうる社会的な課題です。
もしこの記事を読まれている方の中にケアマネージャーがいらっしゃるならば、訪問先のご家庭の中で感じる「違和感」をどうか見逃さず、支援につなげてくださればと思います。
また、私たちケアマネ事務所も、地域に関係なく「つなぐ支援」が出来るのでないかと思っています。
もし迷ったり困ったりすることがあれば、どうぞご相談ください。
声を上げられない子どもたちの代わりに、私たち大人が行動すること。
それが、ヤングケアラーの未来を変える第一歩だと感じています。
円仁会とは? |
円仁会は、インキュベクスやケイスラッシュ、医療関係施設など、複数の関連会社を統括するホールディングカンパニーです。今年 1月より私は円仁会の代表取締役に就任し、よりスムーズな運営を目指して、各関連事業所の代表職を信頼できる方々に委ねております。 |