お世話になっております。インキュベクスの青井です。

本日は、ネスレ社様とシリーズで開催している「在宅高齢者の低栄養の改善」をテーマにしたオンライン座談会第3回(4月22日開催)でゲスト講師としてご参加いただいた高橋看護師のインタビューをご紹介させていただきます。

高橋様は、兵庫県神戸市にて、看護小規模多機能型居宅介護の看護師長を務めておられます。


(※写真はイメージです。)

「通い」「泊まり」「訪問看護」「訪問介護」からなる複合型サービス「看護小規模多機能型居宅介護」(看多機)を通して、在宅高齢者がかかえる低栄養に対しても積極的に介入を行っております。

実際の改善事例やSTさんや主治医、管理栄養士との連携、簡易栄養状態評価アプリ「MNAプラス」の活用などについてお聞きしました。

利用者様の希望をかなえるべく、他職種と連携しながら訪問看護師として「生活」と「病気」両方を看る

高橋様、どうぞよろしくお願いします。


よろしくお願いします。


まず、高橋様のこれまでのご経歴を教えていただけますでしょうか。


以前は二次病院のICUに5年間、勤務していました。6年目からは小児のICUに移り、そこから救命救急センターを立ち上げ、さらに救命センターでER型を立ち上げました。

現在は、看護師小規模多機能型居宅介護(看多機)の看護師長で、看護師、ST、ヘルパーをまとめる立場です。

ちなみに看多機とは、「通い」「泊まり」「訪問」3種類のサービスと「訪問看護」サービスを組み合わせて提供する、複合型サービスです。

4つのサービスを行う一つの事業所が、その人の状態に合わせ、サービスを組み合わせることができ、在宅療養を送る上でスムーズに連携できるメリットがあります。

僕は主に、訪問看護に入っています。


お勤めされている看多機では、胃瘻を取るなどかなり成果を上げているとお聞きしました。


胃瘻の方が3名いて、全員が病院では「経口摂取は無理」と言われていました。それが現在、全員が経口摂取できています。

そのうち1名は、昼と夜がミキサー食、もう1人はゼリーを食べています。もう1人は、水のみテストが満点なので、これからどうアプローチしようか考えているところです。


病院で経口摂取はできないとされた方に対し、どのようにアプローチされたのですか?


嚥下に関してはSTがいるので、一緒に取り組んでいます。看多機は、訪問看護に比べて、介入・アセスメントできる時間が長いです。

その人を看る時間が長いことで、必然的に「こうしたらいけるんじゃないか」とチャレンジしやすいと思います。

訪問看護で看ている方を、デイサービスに連れてきて、チャレンジしてもらうこともできます。

看護師がSTと連携し、「熱が出たり呼吸循環が怪しくなったら、僕が責任もって報告するよ」というスタンスをとっていると、STとしても「ここまで攻めても大丈夫かな」と、やりやすいと思います。

たぶん病院だと、STと看護師は別々の時間に入っていることが多いと思いますが、僕は基本的にSTと同じ勤務です。

病院では「食べられるか、食べられないか」という判断をしていたSTが、「どうやったら食べられるだろう」と、頭が切り替わってくるんです。


栄養補助食品も使用するとお聞きしました。


少量でカロリーが高いものを使用する場合が多いです。ネスレの商品である、「アイソカル」のハイカロリーなどですね。

胃瘻で在宅療養されている方は、「ラコール」1パックで帰ってくるんですけど。

半固形で胃瘻のほうから注入するので、1つ300カロリー。「アイソカル」のハイカロリーであれば、2つ食べれば胃瘻から離脱できる、置き換えることができる、というのが最近わかって。

「アイソカル」を2つ食べることができれば、次はミキサー食にいけるかなど、実践しながら見えてきました。

嚥下のピラミッドの表にある分類に合わせて、「これがいけたから、次はこれ」と、プロトコール(手順・試験計画)を決めてもいいかなと、個人的には思っています。


そのように実績を積んでいくことで、主治医からの信頼を得られますね。


在宅診療医の先生も「高橋さんのところでそういうんだったら、無理のない範囲で進めてもらっていいよ」と言ってくださっています。

訪問看護師として他職種との連携をコーディネートしたい

今後、高橋様はご自身で訪問看護ステーションの独立開業を目指されているとお聞きしました。訪問看護としての介入方法や、地域の連携など、何か考えていることはありますか?


はい。妻が管理栄養士なので、必要カロリーの計算や水分量などは、妻と相談してやっていこうと思っています。

訪問看護ステーションと一緒に、栄養ケアステーションも作る予定です。

訪問看護単体では、一部しか担えないので、デイサービスへの指導やホームヘルパーの指導というところは、エビデンスを持って、根拠立てて説明することが大切だと、看多機をやっていて、少しずつわかってきました。


縦割りではなく、他職種との連携が必要ということですね。


そうですね。連携は重要です。STとナースって職業が違うわけで、“餅は餅屋”なんですよ。

嚥下については、僕らナースは勉強しているとはいえ、あくまでも「誤嚥している、していない」はわかるんですが、それだけなんです。

でもSTは、言語のことや嚥下のことはプロフェッショナルなわけです。僕はナースとして現場に行って、この人が「食べたい」と言っているのであれば、どうやったら食べられるのかを、STと一緒に考えます。

看護師はその患者さんについての情報を一番持っています。

「今こういう状態だから、このやり方はどうか」とか、「本人はこれが食べたいと言っている」とか、トータルアセスメントしていくのが看護師の役割だと思うんです。

他職種さんとうまく連携し、ヘルパーさんからも情報をもらって、地域の在宅医療を支えるリーダーシップをとっていけたらと思います。


なるほど。それが訪問看護師の役割、ということですね。


はい。僕たちナースは、“何でも屋”なんです。

栄養のこともわかるし、嚥下のこと、呼吸のこと、循環のこともわかる。だから、そこをまとめる役割にナースがきっちりはまれば、在宅療養で困ったことがある人のお役に立てると思います。

本人がどうしたいとか、何が食べたいとか、どんな療養生活を送りたいかなど、看護師がトータルコーディネートする必要があります。

例えば胃瘻の人が病院から帰ってきたとき、「何がしたい? どうしたら満足した療養生活が送れる?」と聞いたとき、「お母さんと一緒に机でご飯を食べたい」と言われたとします。

じゃあ、そうするためにはどうしたらいいか、どうしたらむせないで食べられるか、考えてみよう、と。

ADLが低下しているなら、ADLを拡大するために車いすの時間をのばそう、口腔ケアが必要なら歯科の往診医を入れよう、量を食べるとむせるなら、少量でカロリーが高いものを取り入れようとか。

看護師として、「生活」と「病気」のどっちも見て回答する立場だと思っています。


まさに、トータルコーディネートですなんですね。


STに「ちょっと水飲んでもらうの試してみない?」など、他業種へのアプローチをして、それぞれの専門性を活かせるようみんなをまとめあげたらうまくいくかな、と。

この前、水飲みテストをした方がいたんです。舌癌で舌が左半分なく、しかも気管切開もしていて胃瘻、インスリン注射も必要な人です。

病院では「傾向摂食できないから、胃瘻をつくったら家に帰ってもいい」という選択肢を与えられ、家に戻ってきたんです。

本人は「なにもしたくない」と言うんですが、筆談のメモには「声が出ないのが寂しい」とか「紅茶が飲みたい」と書いてある。それならそれが望みじゃないですか、と。

飲めるか飲めないか、という判断は、僕よりもSTのほうが長けています。その利用者さんは痰が増えたりするので、ベテランのSTも「今はテストすべきじゃない」と。

でも僕は、毎日訪問看護に行って、少しずつ改善がみられる利用者さんの様子や、すごく意欲的な一面を見たり、先週よりも今週、月曜より金曜、と確実に立てる時間が長くなったりしているのを目の前で見ています。

状態が上向いているときだから、このタイミングでいけるんじゃないかと提案し、「だめだったら僕が吸引するから、プロの目で判断してほしい」と話しました。

STも「そこまで言うなら」っていうことでテストしたんです。そうしたら、コクって飲めたんです。


そうなんですね! その提案やチャレンジができるのは、経過観察ができる訪問看護ならではですね。


そうですね。僕自身が救命センター出身で、何かあったら対応するし、何かあったら僕が責任取るというスタンスでやっています。

状況が悪化するとしても僕がなんとかする、主治医と調整する、アセスメントをしっかりして、まずかったら僕がきっちり対応する、という姿勢です。

集中治療室でのアセスメントなど、けっこうシビアにいろんな人を見てきたことから比べたら、なんでもやったほうがいいんじゃないか、と思います。

低栄養の課題に介入すべき人を見極める

低栄養の簡易評価システム「MNA‐SF」も活用されていたと聞きましたが、どのように使われていますか?


利用者さんの足の測定をしていたんですが、ほぼほぼ低栄養になりますね。

これは低栄養の課題に対して、介入したほうがいい、というスイッチだと思っています。

デイサービスではきちんと食事をしているけれど、家では独居で認知症が進んでいて、食べたか食べてないかわからない、という人もいらっしゃると思うんです。

MNA-SFでも引っかかっているから、家の食事に栄養補助食品を付けよう、といった考えにもっていくためのツールとしても使えると思います。

あとは、訪問看護を使ってどうなるのか、僕らを使ってもらった結果がどうなるのかを示していかなければ、とも考えています。

例えば、「僕らが介入している人は、みんな食べられるようになっています」と言えれば、うちの看護を使っていただけるじゃないですか。

訪問看護師は、利用者さんの「生活」と「病気」両方を看る

本当にそうですね。ちなみに救命救急センターから在宅の現場に移られていかがですか


在宅になってから羽が生えたというか(笑)。

前職は、公立の病院だったからら公務員、こんなことできなかったんですよ。

それと僕の信念は「考えること」なんです。

この人の嚥下はあの人に見てもらってこういう状態なんだなあ、ご家族様はこういう思いなんだなあ、じゃあどうしたらいいか考えよう、とか。

「処置に行く」とか「バイタル測りに行く」じゃなくて、病気と生活の両方見に行ったらいいと、いつも思っています。それができるのは、看護師しかいないです。医者は病気しか診られないですから。

あとは、「僕はこう思うから、こうしようと提案している。僕が責任を持つ」というのを伝えられないといけない、と思っています。

それを言われると、STも「高橋さんがそう言ってくれるなら、頑張って攻めてリハビリしてみようかな」となります。

そんな感じで熱くやっています(笑)。


まさに「考えること」、まさに在宅療養で必要なことですね。

本日は、素晴らしいお話をありがとうございました。